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成長の鍵となるか?

サトノスケは職員室をおそるおそる入っていった。(先生達って、冬は暖かい部屋にいるんだな。)そんな事を思いながら職員室のドアをしめた。中には担任でありかつ、国語の教科担任であるA先生が忙しそうにみんなのテストの答案チェックをこなしていた。4年生になったばかりのサトノスケは、冬休みの宿題の漢字練習で、先生から訂正を受けた文字について、間違えた部分を消しゴムで消して訂正したものを、先生に見せに行ったのだった。


こんな律儀な生徒がいるだろうか?サトノスケは10か所以上間違えていたようだ。「間違えた分を書き直して持ってきました。」「そうか、よしよし!!」先生は大きくうなずいた。メガネの奥のA先生の目は、大したもんだというびっくりした表情が真剣なまなざしの中に渦巻いていた。

そう言いながら、先生は他の答案用紙を横に置き、サトノスケの3枚ほどのプリントをチェックする。

「また間違っているやないかァッッ!!」

サトノスケをにらみつける先生の眼光がするどく光ると同時に、職員室全体に先生の真剣な怒鳴り声が響き渡る。サトノスケは職員室をノソノソと後にした。こっぱずかしい、先生に申し訳ないような気持ちだった。サトノスケは一生懸命書いた文字を消したくなかったが、涙をこらえて消しゴムで消した。だが、力をいれすぎたのか、プリントは破けた。セロハンテープを張ったが、見映えが余計に悪くなった。サトノスケは書き直すことはしなかったかわりに、ファイルへとじた。

次の日、先生に会うのがつらかった。先生はもう嫌いになっただろうか?だが、そんなサトノスケの不安な気持ちとはうらはらに、先生は昨日の顔とは全然ちがう、朗らかな先生に変わっていた、と言うよりはサトノスケとの昨日の出来事なんてもう忘れているかの様だった。サトノスケは少しだけ安堵する気持ちと一緒にどこからともなく寂しさもつのるのだった。さらに、サトノスケはやっぱりなんだか、自分を責めるわだかまりがしばらく残った。(まちがえのまちがえを持って行かなければ、怒られなかったのに。)多分、最近褒められる事がなかったサトノスケはまちがえのまちがえを持って行き、先生に褒められたかっただけだったのだ。

それ以来サトノスケは職員室へ通うことはなくなったが、成績も上がった。ちょっと成長したサトノスケ。ビターな思い出。



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