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彼と自転車と私

公園にあるブランコ

晴れ渡り雲ひとつない青空

そよ風ひとつない秋の青空

私はブランコをこぐ

座りこぎできるほど握力も強くない

しかたなく立ち漕ぎ

公園にはまだ

誰も来ていない

一番乗りだ

誰もいない公園は

昼間なのに静かだ

シーソーもジャングルジムもぐるぐるまわるのも準備中

ブランコからは池も見えるし

あっちにある

もう一つの公園も見渡せる

車の音は響き渡る

公園は水色の金網で囲まれているし

入口は鍵もある

道路にボールが出ないように

誰かが遊びだしたらそっとしめる

私はブランコに揺られている

目の前の道路に自転車が通った

彼の後ろには彼女がお嬢様座り

彼女はぼんやり私を見てた


私も彼女をみていたかったが

ブランコはもうすぐ一回転

視界は地面の砂

むささびのように降りてきた時には

自転車はもうほとんど見えない

あの黒い粒だろうか

視界は真っ青な雲一つない空

ブランコはとまらない

空の向こうに残るのは

風に舞う

彼女の美しいさらさらのロングヘア

彼の自転車は私を見つけると急いで公園を通り過ぎようとした

彼は前のめりになり自転車を走らせる

私に見つからないようにかがんでいるみたいだった

ブランコをこぐ

目の前が真っ赤になり灰色になり夕焼けになった

彼と自転車と彼女

思わずブランコから手を離しそうになった

ブランコをこぐ

あと少しで一回転

もう少しで一回転しそうになったとき

手を放してジャンプして一回転しようと思った

出来る訳がない

ブランコは静かに小さな弧になっていく

遠くで鳴くのはカラス

やっとブランコから降りたら

フラフラ

私が後悔したことは

靴を飛ばさなかったこと

あの時靴を飛ばしていたら

きっと誰よりも最高記録

それだけが気掛かりだった

彼と自転車と彼女をみたとき

私は彫刻のようになり

喉から出た手が竜になり彼の自転車を追い越し

空高くどこまでもどこまでも煙のように舞い上がって行く気がした

失恋でみとめた初恋

足はガクガクシカジカ

ブランコの上で震えた

歯を食いしばる

失恋の初恋なんて

それだけで終わらせなければいけないのだ

誰かが人は生まれてくる時と死ぬ時はひとりだと言ったが

初恋の失恋もひとりぼっちだ

淡すぎるせつなすぎる孤独感

急にこみあげてきたのは怒り

私はまたブランコをこぎはじめる

ブランコの鎖

冬でもないのに冷たかった

夕焼けを通り過ぎて薄暗くなるまで

ブランコをこぐ

彼を乗せた自転車は通らないのに

家に帰る

マメだらけの手

鉄の臭い

手のひらの錆びは石鹸で洗っても取れてくれない

英雄気取りで披露

ブランコが大好きなんだねと

あのね

一番お気に入りのワンピースを着てね

ブランコに乗っていたら

失恋と初恋が

一緒に来たんだ

ピアノの発表会のために

ママが姉さんのために作った真っ白のワンピース

ママごめんね

今日も仕事から帰って

笑顔で忙しそうに料理をつくるママ

ママには言えない

魔法がとけたイソップ物語のずるいキツネはそう思った

それ以来あのワンピースは永久保存版

真っ白のフレアのワンピースは

タンスの一番下でくしゃくしゃ

陳腐なものに見えた

きっと私は

ブランコをこぎながら

今日も彼が来るのを待っていたのだろう

こっそりワンピースに着替えて

ランドセルを置いたらすぐに出かけた

彼はそよ風のように時々公園にやってくるのだった

誰もいない公園でのブランコ

先着がいたら引き返し

家のすぐそばの公園で遊ぶ

誰もいない公園

1人来て 2人来て 3人来て いっぱい来たら始まるのはサッカー

ブランコ組はここで退散

あの日以来

彼らは来るけれど

彼女らも来るようになり

あの子も彼も来るようになり

公園から私はいなくなった

ブランコでは誰かが今日も立ち漕ぎ



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