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Lちゃんとブランコ

公園にはブランコがありますね。今はどうだかわかりませんが、昔、ブランコの持つ部分は「鎖」だった時期がありました。幼児なんかは知恵の輪みたいになっている鎖と鎖の部分に、手のひらのお肉をはさんでは、イタッとなり手のひらや人差し指に錆がついているなんてこともショッチュウでした。

さて、ブランコの周囲にある、低い鉄棒みたいになっている柵のお話です。

A子は2歳と8カ月くらいだっただろうか、ブランコに乗るのが楽しみだった。ブランコに乗るといっても、漕いだことはなく、ブランコに座り、鎖を握りかろうじて地面につく足の力で前後に揺らしているだけで楽しかった。

時々、興味本位で足に力をいれ、ブランコが揺れはじめ、足の裏がふわっと宙に浮いてはハラハラしていた。ある時、ご近所のLちゃん(4歳と7カ月)がプクッと怒ったふくれ面を掲げながら、どこからともなく全速力で走って来た。かと思えば、A子が座っていたブランンコに、突然立ちこぎ体勢で漕ぎ始めたのである。

当時2人漕ぎが流行った。誰かが座り、両端の開いているスペースに立ちこぎの子が両足を置き、立ちこぎの子が主導権を握り、ブランコを運転する遊びだ。

A子はL子が突然乗ってきた理由がわからなかった。全然ブランコと自分の間隔がつかめていなかったのだから。それはまるで、金槌の人を海にボートから、スパルタ的に投げ込まれた時の感覚であり、コマ付き自転車に乗っていたのに、突然気付いたら、コマなし自転車にテレポートされたかのような感覚だった。もしくは、ジェットコースターの上り坂の頂上に、突然テレポートされたかのようでもあった。


(動いていく!)遊園地で魔法の絨毯という乗り物に乗ったことがある方なら、分かるかも知れない。ブランコはLちゃんが勢いよく漕ぐので、一回、二回、三回と大きな揺れになっていく。A子は何が何か分からなくて、恐怖しかなかった。とにかく鎖を握るが、小脳がブランコの強い揺れについていかない。

ブランコが上り、背中に風を感じる時はまだこらえきれた。だが、下降するときはまるで、ジェットコースターの頂上から降りる時の感覚だった。「やめてぃ~!!!」A子は泣き叫んでいた。だが、Lちゃんは何か面白くないことでもあったのか、ブランコを漕ぐのをやめるどころか、スクワット感満載で漕いでいくのだった。(Lちゃんは何かに腹を立てている、それは私がブランコをいつまでたっても、立ち漕ぎしないからなのか?それとも、順番を待つのにイライラしたからなのか?)Lちゃんは、念願のブランコに乗れたのに、まだ怒りはおさまらないようだった。

”上る、下降”で1セット。Lちゃんの、コットン100%のスカートが、A子の顔にフィットし、息ができなかったこともあり、6セットくらいのところで、A 子はいよいよ意識が遠のくのを感じた。(今、鎖を離したら大ケガするだろうな。)幼児でもこれくらいは分かる。だが、限界だった。

A子は手を離した。(さよなら、Lちゃん。)ブランコが頂上に上がっている途中で手を離したので、向きとしては、後ろへの力が働いていたのであろう、A子は後ろに勢いよく、座った姿勢のまま飛んだ。羽が生えていたら、絵になっていただろうか。

A子は意識が戻った。しばらく意識がなかったようだ。その時、丁度ブランコの角枠に座高がぴったり合い、角のポールが座高測定器のようになっていた。A子はこう思った。ブランコから弧を描きながら落下、偶然この角に着地。だからこの柵は安全装置だ、この低い柵に身を守ってもらったのだ、そう思うしかなかった。

しかし、今となればこうも考えてみる。ブランコから落ち意識がしばらくなくなった時、Lちゃんが気を使い、背もたれのあるブランコの角のポール部分まで運んで、人形のように座らせてくれていたのかも知れない。

いや、実は両手を離した時、後ろにイナバウアーしながら、Lちゃんの足に足がからみ、それにやっと気づいたLちゃんが、すぐにブランコをストップさせた。だけど、ブランコをこぎたかった気持ちを抑えることができず、私をとにかく安全なブランコ柵の角に座らせておいた。この時、Lちゃんは私が眠っていると思っていた。

確かにそうかもしれない、Lちゃんは、目が覚めた時、同じブランコで一心不乱に立ち漕ぎしていたから。どちらにしても恐るべきL。

今度は幼児たちの間で、ブランコの柵であるポール渡りが流行することになる。



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